特別支援・福祉カタログ Vol.7
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Intervi ew「普通」という価値観から脱し互いを認め合うことが第一歩ルーシブ教育を進めるための方策を模索してきましたが、今後もその必要性は増していくでしょう。―では、インクルーシブ教育がもたらす具体的なメリットについてもお教えください。インクルーシブ教育の最大のメリットは、多様な人と共に学ぶことで、子どもたちの協力する力や他者を尊重する姿勢が自然に育まれることです。異なる背景や価値観のある仲間と学ぶことで、子どもたちは互いに「思いやり」や「受容」の気持ちを自然と持つようになります。これは単なる道徳的な意味合いではなく、将来、職場や地域社会で他者と協力するための実践的なスキルです。また、インクルーシブ教育を受けた子どもたちは、異なる価値観や能力に触れる中で、自己理解が深まりやすくなります。私は、支援が必要な子どもたちが「自分にも得意なことがある」と気づき、仲間と協力し合う姿を多く見てきました。たとえば学校では、車椅子の児童がクラスメイトの補助で運動会に参加したり、発達障害のある子どもが他の子どもたちに励まされて一緒に活動したりする場面がありました。そうした体験を通して、子どもたちはお互いにとってかけがえのない存在となり、チームとして目標に向かって協力し合う力が育まれていくのです。こうした体験は「違いを認め合うことが持続可能な社会を作る力になる」という信念にもつながっています。―お互いに学び合い、助け合うことで、協力の意識が養われるのですね。一方で、インクルーシブ教育に対しては、懸念や反対意見もあるようですが、どうお考えですか?懸念としてよく聞かれるのは「特別な配慮が必要な子どもがいると、クラス全体の学習ペースが遅れるのでは」という意見です。しかし、適切な支援体制を整えれば、すべての子どもが学びやすい環境を作ることが可能です。支援が必要な子どもに対する補助を工夫し、クラス全体の授業進度を損なわない工夫もできます。また、支援が必要な子どもがいることで、他の子どもたちも思いやりや協力の精神を自然と育むようになるのです。私が支援学校で勤務していた頃、子どもたちの間に「普通」という教育制度の設計や改善に携わる中で、現場の声を反映しながら、すべての子どもが自分らしく学べる環境づくりがいかに重要かを再認識しました。―インクルーシブ教育の世界的な状況と比べて、日本の現状はどのように評価されていますか?たしかにインクルーシブ教育は、国や地域によって進行状況が異なります。たとえば、イタリアでは特別支援学校を廃止し、障害のある子どもも地域の学校に通っています。では、イタリアのスタイルが最良かといえば、一概に断言はできません。実際は支援体制や専門の人員が不足し、必要なサポートが十分ではないという現状もあるのです。一方、日本は特別支援学校や支援学級、通級指導教室といった多様な学びの場が整備されています。子ども一人ひとりのニーズに応じた支援を提供しやすい点が特徴です。しかし、国際的に見ると、日本はまだ“分離”教育の面が強く、すべての子どもが同じ教室で学べる場が限られています。国連からも、日本に対して「すべての子どもが共に学べる環境の整備」を求める勧告が出されています。これから日本が進むべき道は、支援システムの多様さを維持しつつ、共に学ぶ環境をさらに増やし、障害のある子どもとない子どもが互いに尊重し合える社会を作ること。私も現場と政策の双方に関わり、インクこの子らに世の光をエクスクルージョン(排除)セグリゲーション(分離)▲インクルージョンとは(日本が目指す方向)我が国の特別支援教室は、「多様で柔軟な仕組みの整備・多様な学びの場」・「交流及び共同学習」の充実により「インクルーシブ教育システム」の構築を目指している。この子らを世の光にノーマライゼーションインテグレーションメインストリーム(統合)共に生きる・暮らすインクルージョン(包摂・包容)

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